《 序章 》

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        カラン────。 扉を引くと、軽やかなカウベルの音が響いた。 店内から流れてきたのは、控えめで耳に心地よいジャズ。 「いらっしゃいませ──」      カウンターを拭いていた手を止め、彼女は振り向いた。 やわらかそうな髪がさらりとゆれて、肩先で踊る。     その笑顔に俺は見惚れた。 彼女は、俺を見るなり笑顔を消した。 「…………」 何を言おうとしたのだろう。 彼女の唇がかすかに動く。 俺は彼女の揺れる瞳に戸惑い、その場にたたずむことしかできなかった。     .
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