《恋は面倒》

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     「結婚はいいぞぉ」     ジョッキをぐいと空け、和泉潤貴(いずみじゅんき)は上機嫌で笑う。 ここ2年来の酔ったときの潤貴の口癖だった。      「ああ」       今井陸朗(いまいりくろう)は気のない返事をして、通りがかった店員にビールとジンライムのおかわりを告げる。      ──結婚生活のどこがどういいのか、説明してくれよ。 簡潔に。 俺の納得いくように。       陸朗は口の端だけで笑って、潤貴の左手薬指に光る指輪を横目で見やった。 幸せなのだろう。 普段は精悍な顔立ちが、これだけ無邪気にほころぶのだから。      「今井よ。 おまえももう30だぞ!? 焦りとかないんか?」      「ないね」      「あっ──そ」      潤貴はかくんと首を折り、大きくため息をついてから焼き鳥を噛みちぎった。           ふたりの行きつけの居酒屋でこうして膝突き合わせて酒を酌み交わすことが、自然にお互いの生活の一部になっていた。      陸朗の仕事仲間である潤貴は2年前に結婚し、昨年女の子が生まれ、念願の父親になった。     ・
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