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潤貴ももうじき30を迎えるが、独身の陸朗よりもすっかり落ち着いてしまった感がある。
4歳年下の妻、真琴(まこと)と、溺愛する娘花音(かのん)の話をするとき、潤貴は世界中の幸せを独り占めしているような笑顔を見せた。
父親になってからの潤貴は、なにかにつけ陸朗の恋路の世話をやきたがるようになった。
『オレの幸せを分けてやるよ』とでも言うように──。
陸朗は決まってそっけなく生返事をするのだが、そのたび潤貴は大げさなため息をつき、それでもめげずにまた話を蒸し返す。
陸朗にとっては迷惑以外のなにものでもない。
結婚という枠に収まって安心し、子供をもうけ、家族という形をつくり──その形に幸せを感じる人間が大半だろう。
だが、陸朗はそういう形が自分には向いていない気がするのだ。
だから、潤貴に焦りがないと答えるのは負け惜しみでも何でもない。
縁があれば、とは思う。
このまま独りでも平気なんだろうな、とも思う。
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