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彼女の視線は愛想のいい潤貴ではなく、そっぽを向いている陸朗に終始注がれていた。
彼女がくるりと背を向けて行ってしまうと、「ほーらな」と潤貴が顎を突き出す。
「なんだよ?」
面倒くさそうに陸朗は訊く。
「何が違うんだ?
どこが違うんだ、え!?
おまえと!
そしてこのオレの!
ずーっとおまえを見てやがった。
これじゃオレの『顔』に惚れて結婚したヨメの立場がなかろう!?」
「顎。引っ込めろ」
陸朗は低く笑い、グラスを持った指で潤貴の顎をつついた。
「ふん。まぁいい。
わかってんだ。
ようは心優しいオレが進んで『いいひと』を演じてやってるから、おまえのその『どうせオレはよぉ』的なクールさがきわだって、世の女たちをおおいに喜ばせるというわけだ!」
今度は明るく声をたてて陸朗は笑った。
「和泉。
俺はおまえのタフさが羨ましいよ。
器用に誰とでも同調できる。
おまえのその笑い皺は勲章だもんな。
俺は愛想笑いは仕事だけで充分だ」
「へーへー、そーですか。
ホントかっこいいすわ、今井陸朗さん。
オレは特な性格なんだよ。
あれ?
んでなんの話、しかけたんだっけ?」
「さぁな」
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