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十年前、ある村の夢
雪が降り続け、白銀の世界を見せる国『リーンアルム』、その一地方において、その白銀の雪の上に大量の赤が溢れていた。
「はあっ、はあっ」
遠くでは悲鳴や怒号、咆哮や剣撃の音が響く中で、二人の子供がその雪の上に足跡を作っていた。
「はあっ、はあっ、もうダメ、お兄ちゃん」
「諦めないで、雫(シズク)!」
息も絶え絶えにしている少女を少年は必死に手を引いて走る。
「東に行けば王都へ行けるはず、王都には神楽叔母さんの家があるから、僕達は必ず助かるんだ」
「うん」
黒髪黒瞳の少年の名は逆神天火(サカガミテンカ)、長く一本にくくった後ろ髪が走るたびに横に揺れている。
同じく黒髪黒瞳の少女の名は逆神雫(サカガミシズク)、天火とは違ってショートカットの彼女は手を引かれて必死の表情で天火についてきていた。
突然村に現れた魔獣の群れ。
村で戦える者は全て魔物の群れとの戦いへと向かった。
そして、その中には二人の両親も加わっていたのだが。
結果は全滅、残った村人は散り散りとなって逃げ出した。
二人も王都の方向に向かって逃げている途中であった。
「お母さぁん、お父さぁん」
雫が涙を流しながら自分の両親を呼ぶ。
天火は自分も叫び出したくなるのを堪えて雫の手を引く。
しかし、突然立ち止まって、後ろを見た。
「雫、先行って」
「な、何を言ってるの、お兄ちゃん?」
雫を自分の後ろに持っていき、天火がもしもの時のために家から持ってきていたナイフを抜き、雪の先の影を睨む。
「早く行って!」
天火は雫に向かって叫ぶ。
「嫌だよ!、お父さんにお母さん、それにお兄ちゃんまでいなくなるなんて!」
雫は天火にしがみつき、涙を流して天火と同じように叫ぶ。
「雫・・・・・・」
一瞬天火は悲しい顔をして、それから優しい笑顔で雫を撫でる。
「大丈夫だって、俺は死なないから、約束する、必ずまた雫と会うから」
「お兄ちゃん・・・・・・」
「大体、今王都には夜半や雪音、カズ兄やハル姉だっているんだよ、会わないまま死ねないよ」
雫を安心させるように天火は笑い、ゆっくりと雫の手を放させる。
「さあ、行って」
「お兄ちゃん・・・・・・死なない?」
「うん」
最後まで安心させるように天火は笑い、それを見た雫は王都に向かい、全力で走っていった。
それを見届けてから天火は現れた狼を見た。
「行かせないよ」
当時七歳、逆神天火の初めての戦いだった。
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