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「あー……キツイ。頭がとろけそうだ」
俺は酒染みですっかり黒くなったカウンターに突っ伏して愚痴垂れていた。
横には酒の中でも一番安いラム酒が小さなグラスに入っている。
数ある酒の中で何故ラムを選んだのか?
理由は明白、金がないからだ。
普通の生活をしていれば、有り余る程の収入があるのだが、何分、俺は普通の生活なんか生まれた時に母親の腹ん中に忘れてきちまっているもんだから、出費はどんどんかさんでいき、結果、安いラムで喉を焼いていた。
「あらあら、じゃあ昼間からお酒なんか飲まない方がいいんじゃない?まあ、あたしは儲かるからいいんだけど」
俺は顔を上げて声の主を見た。
カウンターの中にいるそいつは洗い物をしながら呆れたようにこちらを見ていた。
金髪碧眼なのだが、そんな奴はこのパラダイス内に腐る程いる。
目を引くのはその容姿であり、一言で言うなら妖艶。
左目の横に泣きボクロがあり、おおよそ男遊びが似合う顔立ちだ
そして、ほっそりとした体の腰までのびた金色の髪がその妖艶さをより際立たせていた。
初めてこいつを見る男が難点をあげるならまな板みたいな胸だけだろう。
こいつこそこの店の店主、ディックだ。
決して広いとは言えない店内は昼間ということもあってガランとしている。
この店は昼間に開いて、明け方閉まる。だから、店が賑やかになるのは夕方くらいからで、今は俺とディックの二人だけだ。
「酒は薬だ。いけねぇのは悩みの種であって、酒じゃあねぇよ」
「あんたでも悩みがあるの?」
「金だよ、金。近頃、ちんけな仕事ばっかり寄越しやがって、おかげで女も抱けねぇ夜が毎日続いてんだよ」
『何でも屋』の仕事はそれこそ、人探しから人殺しまで『何でも有り』だ。
そして、依頼は全てディックを通して行われる。
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