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ディックの酒場経営はただの人集めのためのかざりで、本職は情報屋。
客から仕入れた情報を別の客に売る。
この収入のおかげで酒場経営なんて儲からない仕事が続けられるのだ。
俺は顔の広いディックに仕事があれば紹介してもらうように頼んでいる。
もちろん、タダではなく依頼料の四割をディックが受け取るという泣きたくなる程素晴らしい条件付きで。
「あたしでいいなら、安くしとくわよ?今からする?」
「願い下げだ。気色わりぃ。俺は女しか抱かねぇんだよ。男のケツ掘る趣味はこれっぽっちもねぇ」
そう、初めてディックを見る奴は女だと思うだろうが、こいつは男だ。
何で女のフリをしているのか理解できないが、正直気持ち悪い。
「別にいいじゃない。ねぇ、やりましょ?」
「よくねぇ。それより仕事くれよ」
俺がそう言うと、ディックはあからさまに大きなため息をついた。
「そう言うと思ったわよ」
少し寂しそうな表情をしたディックは仕事の話をきり出す。
「殺しの依頼が一件あるわ。依頼主は匿名。ターゲットは西区の麻薬売ってる成金商人。手段は問わず、報酬はがっぽり。どう?」
俺は後ろで束ねている黒髪を撫でた。口元に思わず笑みが浮かぶのを止められない。
悪人の笑みだ。
「明日はいい女が抱けそうだな。わかった、その依頼を受けるよ。詳しく話してくれ」
ディックは依頼内容について詳しく話し出した。
話を聞いている間も、ラム酒に写った俺の無精髭面はいやらしく笑っていた。
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