冬と空と雨と……

10/42
前へ
/145ページ
次へ
  俺が彼女を観察するようにゆっくりと見ていると、 「お兄さん、やるの?」 「へっ?」 突然の言葉。 俺は、彼女が何を言っているのか分からなかった。 ただ、次の言葉を聞いた瞬間、俺はなんのことを言ってるのか理解した。 「手なら千円、口は千五〇〇円……」 その、震えている嫌な言葉が耳に取り込まれていく。 「付けてなら三千円、生なら四千円、中で出すなら」 「止めろ」 「えっ……?」 俺は不意にそう呟いていた。 その言葉を聞きたくないがために。 彼女の目に俺の目を向ける。 一番に出ていたのは驚きの色。 しかし、その奥には確実に絶望、暗闇、奈落が見えた。 光が……ない。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

484人が本棚に入れています
本棚に追加