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黒スーツの男に連れられて、薄暗い廊下を歩く僕。
「大崎様、こちらでございます。」
そう言って黒スーツの男はその重たそうな扉をカードキーで開ける。
「これが……。」
「大崎様、今から見る光景、情報はくれぐれも他言なさらぬようお願い致します。」
「はい…。」
目の前の光景に僕は息を呑む。
やけに広く、暗い部屋の中心に置かれた筒状の透明なシェルター。
その中に彼女はいた。
「これが、人造人間…。」
「いや、それはただの容器だ。」
突然後ろから声がした。
「はじめまして、大崎教授。私がここの責任者、樋山です。」
「大崎です。」
今日僕を呼んだ男だ。
樋山 圭司、見た目は五十近くだろうか。
無精髭を生やし、Yシャツの胸元を開けている。
差し出された左手に戸惑いながら握手を交わす。
黒スーツの男は樋山が来ると部屋を出て行った。
「樋山博士、容器とはどういう意味ですか?」
「そのままの意味ですよ。」
「そのままの…。」
「これはただの容器だ。この容器に人工頭脳を埋め込んで初めて人造人間としての意味を持つ。」
僕は彼女をじっと見つめた。
目を閉じて立っている裸の彼女を。
髪は黒く、肩まで伸びていて、綺麗な肌をしている。
「人間みたいだ…。」
僕は思わず彼女に見とれた。
「これから人間になるんですよ。未来、全ての人間は彼女から生まれる。」
「生まれる!?」
「そう、このHF000は一般の人間女性のように妊娠をします。」
「まさかそんな…。」
「本当です。ただし妊娠と言っても、コンピュータからのデータ入力による人工妊娠ですが。」
「人工妊娠…。」
僕は恐ろしくなった。
人造人間が人間を生む…。
そんな事があり得るのだろうか。
「大崎教授、よければ彼女に名前を付けていただけませんか?」
「え…名前、ですか。」
「はい、お好きなように。」
「…。」
僕は思い出していた。
海外にいた頃、一人日本で死んでいった妻の事を。
「……百合子。」
「百合子?」
「ええ、核爆弾で死んだ妻の名前です。」
「なるほど、では彼女の名前は百合子に決定ですね。では、最終審査に立ち会っていただきたいのでこちらへ。」
「はい。」
こうして、人造人間という容器には妻の名前が付いた。
Humanoid type-Female
model no.000
cord name 『百合子』
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