0人が本棚に入れています
本棚に追加
AIチップを埋め込まれた彼女が動く気配はなかった。
「どうしたんだ?なぜ動かない?」
樋山が慌てた様子で科学者達に問い掛ける。
「おい!百合子!HF000!聞こえるなら返事をしろ!」
樋山が研究室のマイクから呼び掛けるが、彼女は一向に動く気配はない。
「大崎教授、あんたのAIチップは正常に働いているのか?」
徐々に樋山の言葉使いが荒くなる。
「AIは正常に機能してますよ。問題があるなら動力の方じゃないんですか?」
「……くそっ!」
樋山がコンピュータをいじり始める。
「樋山博士、こうなるとまたイチから補正しないと動きませんよ。AIと動力を結ぶ経路が噛み合ってないのかもしれない。」
「そんなはずはない!」
「樋山さん!出力を上げすぎです!危険ですよ!」
樋山は科学者の言う事を無視して、神経経路のデータをいじっているようだ。
「大崎教授はAIに直接指示を出してくれ!」
「やってますよ、さっきから。何の返答もありませんが。」
「この…ポンコツが…!」
「樋山さん!内部動力の数値が限度を越えてます!」
「構わん!」
樋山の声と同時にコンピュータが警告音を発する。
警告音は科学者達に不安を与えながら、単調なリズムを刻む。
「樋山さん!シェルターから白煙が!」
全員がシェルターに目を向けた時、破裂音と共にガラスの飛び散る音、そして立ち込める白煙の中から聞こえる微かな足音。
「動いた…。」そう誰かが口にした。
僕たちの目の前に現れたのは、ついさっきまでピクリともしなかった彼女だった。
裸の彼女は周りを見渡していた。
「は…はは、ははは!動いた!動いたぞ!」
樋山が研究室を飛び出して彼女の元へ駆け寄る。
「おい!誰か服を持ってこい!」
樋山は彼女の側に近付くと、白いワンピースを着せた。
「HF000…いや、『百合子』…。」
樋山は彼女の頬にそっと手を当てる。
僕と数人の科学者達は研究室からその様子を見ていた。
「『百合子』、君は人類の絶滅を止める為に生まれたのだ。ふふふ、さあ、自分の名前を言ってごらん。」
彼女は樋山の顔をじっと見た後、小さな声で言った。
「……百合子。」
今まさに人造人間が誕生した。
最初のコメントを投稿しよう!