誕生

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AIチップを埋め込まれた彼女が動く気配はなかった。 「どうしたんだ?なぜ動かない?」 樋山が慌てた様子で科学者達に問い掛ける。 「おい!百合子!HF000!聞こえるなら返事をしろ!」 樋山が研究室のマイクから呼び掛けるが、彼女は一向に動く気配はない。 「大崎教授、あんたのAIチップは正常に働いているのか?」 徐々に樋山の言葉使いが荒くなる。 「AIは正常に機能してますよ。問題があるなら動力の方じゃないんですか?」 「……くそっ!」 樋山がコンピュータをいじり始める。 「樋山博士、こうなるとまたイチから補正しないと動きませんよ。AIと動力を結ぶ経路が噛み合ってないのかもしれない。」 「そんなはずはない!」 「樋山さん!出力を上げすぎです!危険ですよ!」 樋山は科学者の言う事を無視して、神経経路のデータをいじっているようだ。 「大崎教授はAIに直接指示を出してくれ!」 「やってますよ、さっきから。何の返答もありませんが。」 「この…ポンコツが…!」 「樋山さん!内部動力の数値が限度を越えてます!」 「構わん!」 樋山の声と同時にコンピュータが警告音を発する。 警告音は科学者達に不安を与えながら、単調なリズムを刻む。 「樋山さん!シェルターから白煙が!」 全員がシェルターに目を向けた時、破裂音と共にガラスの飛び散る音、そして立ち込める白煙の中から聞こえる微かな足音。 「動いた…。」そう誰かが口にした。 僕たちの目の前に現れたのは、ついさっきまでピクリともしなかった彼女だった。 裸の彼女は周りを見渡していた。 「は…はは、ははは!動いた!動いたぞ!」 樋山が研究室を飛び出して彼女の元へ駆け寄る。 「おい!誰か服を持ってこい!」 樋山は彼女の側に近付くと、白いワンピースを着せた。 「HF000…いや、『百合子』…。」 樋山は彼女の頬にそっと手を当てる。 僕と数人の科学者達は研究室からその様子を見ていた。 「『百合子』、君は人類の絶滅を止める為に生まれたのだ。ふふふ、さあ、自分の名前を言ってごらん。」 彼女は樋山の顔をじっと見た後、小さな声で言った。 「……百合子。」 今まさに人造人間が誕生した。
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