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「籠の鳥にも餌が必要かぁ…。真理子は、旦那さんに餌を与えて貰ってる」 仕事帰りに寄った居酒屋で、山之内真理子が、近田春彦と偶然に再会して、近田が離婚した話を聞いた、寺島菜穂子は、ビールのコップを両手に持って言う。 「私は、籠の鳥じゃ無いから」 「真理子は、自由に仕事をさせて貰ってるからね」 「同居人だから」 「また言ってるよ」 菜穂子は、呆れ顔でビールを飲み干す。 「家庭に押し込んで置けば、大丈夫なんて、男の甘い幻想よ」 真理子は、薄荷煙草に火をつける。 「それは言えてる」 菜穂子も真理子に倣って煙草に火を付け深く吸い込む。 「近田春彦と再会するなんて、凄い偶然じゃない。焼けぼっくいに火がついたりして」 冷酒に切り替えた菜穂子が、真理子を上目使いに見る。 「ただの疲れたおじさんになっていたよ」 真理子は、菜穂子から冷酒を酌されながら言う。 「疲れたおじさんかぁ…。私達だって、綺麗に着飾っていても、ただのおばさんなのかな」 菜穂子は、ため息混じりに言う。 「菜穂子。それを言ったら老け込むよ」 真理子は、菜穂子の肩を抱く。 「電車で帰るなんて、久しぶりだな。旦那は、起きてるかな」 京浜東北線で蒲田の自宅に帰る車中で、真理子は呟く。 蒲田駅からタクシーで自宅マンションに戻った真理子は、静かに玄関のドアを開ける。 真理子がリビングに入ると、夫の義孝がソファーでギターを弾いていた。 真理子に気付いた義孝は、ギターを弾くのを止める。 「ギター何て、珍しいじゃない」 「これは、お早いご帰宅で。棚橋や工藤達とまた、バンドをやる事になった」 義孝は、ギターを横に置きながら言う。 「工藤って、工藤秀次郎」 「他に工藤でバンドを一緒にやる知り合いはいない」 「いくら大学の後輩だからって、あの工藤秀次郎と一緒にね」 真理子は、驚いた顔で義孝を見る。 「驚くのは早いよ。北原輝之も一緒だよ」 義孝は、誇らしげに真理子を見る。
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