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工藤秀次郎と北原輝之の路上ライブを見に行ってから、半月程がたった土曜日の午後、山之内義孝は、愛用のギブソン・ハミングバードと新しく買い求めたギブソン・335 タイプを手に、中目黒に来ている。
「お疲れ。待ち兼ねたよ」
改札口を出た山之内に、背中にフェンダーのベースを背負った棚橋が、声をかける。
「神保はまだ」
山之内は、ギターを柱に立てかけて、改札口の方を見る。
「奴さんは、千葉だから、今、メールをしてみるよ」
棚橋は、携帯電話を片手に言う。
十分程して、神保が改札口から出て来る。
タクシーで貸しスタジオに向かうと、すでに工藤と北原は来ていた。
工藤は、妻の香織と一緒である。
「スタジオの手配をしてくれて、ありがとう」
山之内は、貸しスタジオの手配をした工藤に声をかける。
この貸しスタジオは、《チェリーボーイズ倶楽部》が、いつも使用していた所だった。
「お安い御用です」
山之内、棚橋、神保の三人に楽譜を手渡しながら、工藤が言う。
早速、楽器のスタンバイをして、練習を始める。
「しばらくぶりにしては、指が動いてましたね」
休憩で煙草を吸いに出た山之内に、北原が声をかける。
「毎晩、少しは弾く様にしたから」
山之内は、煙草に火を付ける。
「珈琲をどうぞ」
「ありがとう。香織ちゃん」
北原は、香織から珈琲の入った紙コップを受け取る。
「山之内さん、お砂糖とミルクは」
「入れます」
山之内は、香織からステックの砂糖とミルクの容器とブラスチックのスプーンを受け取る。
「工藤の嫁さんは、若いのにしっかりしているな」
紙コップを片手に棚橋と神保が、煙草を吸いにやって来る。
「棚橋さん。香織ちゃんは、《協栄海運》社長令嬢ですから」
「工藤とは、兄妹じゃないか」
北原の言葉に棚橋は驚く。
「秀次郎は、元々養子ですから、何の問題もありません」
「工藤は、養子だったのか」
棚橋は、北原の言葉に二度驚く。
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