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「山之内さんは、高い声が、相変わらず出ますね」 煙草を片手に工藤秀次郎がやって来る。 「演奏しながら歌うと気持ちが、良いな」 山之内義孝は、珈琲を飲み干す。 それから二時間、みっちりリハーサルをする。 「工藤が、養子だったとはな」 東急東横線の車内で棚橋は、隣に座った山之内に言う。 「養子だから、あれだけ才能がありながら、音楽の道に進まなかったんですかね」 「そうかもな。でも《チェリーボーイズ倶楽部》は、変わったバンドだったよな」 「メンバーが一人も業界に残らなかったからな」 多摩川で東急多摩川線に乗り換え山之内は、自宅のある蒲田に向かう。 棚橋の自宅は、横浜である。 「帰っていたのか」 山之内が、自宅マンションに戻ると、妻の真理子が帰宅して、テレビを見ていた。 「お帰りなさい。バンドの練習だったの。工藤さんや北原さんの足は引っ張らなかった」 「昔の勘を取り戻すのに必死だったよ」 山之内は、着替えをしに、自分の寝室に行く。 「あなた、ご飯は」 「駅前で食べて来た。おまえも一緒にどうだ」 冷蔵庫から、缶ビールを二本持って来た山之内は、一本を真理子の前に置く。 「ありがとう。何かおつまみを用意するわね」 真理子は、立ち上がりキッチンに行く。 「簡単なので良いから」 山之内は、缶ビールの蓋を開けて、一気に半分程飲み干す。 「お待ちどう様」 電子レンジのチンの音が聞こえ真理子が、鳥の唐揚げを持って、リビングに戻って来る。 「乾杯」 缶ビールを手にした真理子は、山之内の手にした缶ビールに缶を合わせる。
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