7/8
前へ
/96ページ
次へ
「どんな曲をやっているの」 鳥の唐揚げを食べながら、真理子が山之内に尋ねる。 「大学時代にやっていたオリジナルを、とりあえずやる事にした」 「オリジナルは、工藤さんが曲を付けたの」 「当然。作詩は俺だよ」 「あなたが、作詩ねぇ」 真理子は目の下をほんのり朱く染めている。 「こう見えても、文学青年だったんだよ」 山之内は、二本目の缶ビールの蓋を開ける。 「あなたの書いた歌は、聞いた事はなかったわね。聞かせてよ」 「今、ここで」 山之内の言葉に真理子は、黙って頷く。 山之内は、奥の部屋に行き、ギブソンハミングバードを取って来る。 チューニングを確かめて、山之内は歌い始める。 《今の君を》 君をこの海に連れて来て、若かった頃の話をした。 それは、青臭い恋の物語。 あの頃と呼べる程、大人に変わったんだろうか、今はただ、寄せては返す波を見つめながら。 ★いつまでも、見つめたい、いつまでも、君だけを。★ 黙って聞いている君は、夜の海を見つめてた。 僕は、君の横顔を見つめてる。 こうして突然に、昔話したのは、思い出が大切なだけ、今の君が大切だから。  今はもう涙で霞み、君の顔もよく見えない。 ★繰り返し×2 「誰の事を歌ったのかな」 「内緒。そろそろ寝ようか」 山之内は、ギターをハードケースに仕舞いながら言う。
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加