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山之内真理子が、義孝のギターの弾き語りを初めて聞いた、翌日の夜、渋谷のハチ公前に来ていた。
「急に誘ったりして、悪かったね」
息を切らして、近田春彦がやって来る。
「大丈夫ですよ。たまには仕事以外で、飲むのも良いかな」
今日の昼過ぎに突然、近田は真理子を食事に誘った。
「ご主人は、大丈夫」
生ビールで乾杯した後、近田は、真理子に尋ねる。
「主人も慣れっこだから…。ねぇ聞いて、主人がバンドを、年甲斐もなく始めたのよ」
真理子は、生ビールを早いピッチで開ける。
「ご主人は、昔、バンドをやっていたの」
「学生時代にね。それが、あの工藤秀次郎と北原輝之が、一緒なのよ。いくらサークルの先輩だからって、無謀よね」
「工藤秀次郎、北原輝之って」
「《チェリーボーイズ倶楽部》の工藤秀次郎と北原輝之」
「ああ、何年か前に再結成した、エリートさん達のバンド。ご主人の知り合いなんだ」
近田は、真理子の夫が、《チェリーボーイズ倶楽部》のメンバーと知り合いなのに驚く。
「昨夜なんか、自分が作詩した歌を、初めて聞いたわよ」
「そうなの。結婚前とかに、弾いて歌ってくれなかったの」
「ギターを持っていたのは、知っていたけど、興味がなかったしね」
真理子は、三杯目の生ビールを注文する。
「真理子らしいよ」
近田は、運ばれて来た、海藻サラダを真理子の前に置く。
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