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『今夜は、遅くなります。夕飯は、適当に済まして下さい』 「今夜は…。今夜もだろう」 山之内義孝は、妻の真理子からのメールを、削除しながらつぶやく。 春の人事異動で責任あるポストに着いた真理子は、深夜に帰宅する事が多くなった。 真理子と結婚して十五年、二人の間には、子供が出来ず、真理子は、キャリアウーマンとして、バリバリ働いていた。 六時前に会社を出た山之内は、満員の電車に揺られて、家路に着く。 山之内は、途中のスーパーで、刺身の盛り合わせと、イカのリングフライと缶ビールを買って、誰もいないマンションのドアを開ける。 スーツから、スエットに着替えた山之内は、CS放送で阪神の試合を見ながら、リビングのテーブルに並べた、パックのままの刺身とイカリングを食べながら、缶ビールを飲み始める。 「今年の下柳は、調子が良いよな」 贔屓の阪神が、一点差で勝っているゲームを見ながら、三本目の缶ビールを空にする。 いつの間にか、寝てしまっていたらしい山之内が、目を覚まして、ソファーから身体を起こす。 帰宅した妻の真理子が、やったのか、リビングのテーブルの上は、綺麗に片付けられて、山之内には、毛布がかけられていた。 「六時半か」 腕時計を見て山之内は、ソファーから立ち上がり、トイレを済ませてから、シャワー浴びる。 浴室で髭を剃りをして、髪をドライヤーで乾かした山之内は、腰にバスタオルを巻いて、もう五年以上も別々になった寝室に行き、出勤の支度を始める。 まだ寝ている妻の真理子を起こさない様に、マンションを出た山之内は、会社の近くの朝からやっている喫茶店に入り、モーニングセットを注文する。 この生活パターンを山之内は、もう何年も続けていた。
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