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「こうして、一緒に飲むのは、一年ぶりかな」 新橋の居酒屋で、生ビールを片手に山之内義孝が、隣にいる棚橋に言う。 「そんなに会ってなかったか」 棚橋が、モツ煮込みを食べながら言う。 「この後、神田にある、楽器を演奏出来る店に行かない」 「良いな。でも指が、動くかな」 山之内と棚橋は、大学の軽音楽部で一緒のバンドに組んでいた。 「実は、俺も不安だよ」 山之内は、煙草に火を付ける。 「そう言えば、工藤秀次郎が、武蔵小杉の駅前で、北原輝之と一緒に路上ライヴをやっていたよ」 「工藤は、北海道の本社に戻ったんじゃ」 山之内は、驚いて棚橋を見る。 工藤秀次郎は、山之内と棚橋の大学の軽音楽部の後輩で、人気バンド《チェリーボーイズ倶楽部》のメンバーで、北原輝之も大学は違うが、《チェリーボーイズ倶楽部》のメンバーだった。 《チェリーボーイズ倶楽部》は、三年前に再結成して、半年間程活動した。 「関東支社長で戻ってきたらしい」 「『協栄海運』の御曹司だからな」 「北原は、確か弁護士だったよな」 「バンド解散後は、会社後継者、弁護士、医者、一流商社マンになった」 「高校生でデビューして、大学受験で活動停止してそのまま解散だからな」 棚橋は、生ビールを一気に飲み干す。
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