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「真理子」
「近田さん。お久しぶり」
得意先回りの途中で入った、喫茶店で山之内真理子は、突然、名前を呼ばれて、驚いて相手の顔を見る。
真理子の目の前には、十五年前にプロポーズされた、近田春彦が立っていた。
「真理子は、相変わらず、仕事をしているんだ。結構はしたの」
「お蔭様で、理解ある人と巡り逢えまして。近田さんは」
真理子は、対面に座った近田に、表情を変えずに言う。
「俺は離婚したよ」
近田は、伏し目勝ちに言う。
「専業主婦になってくれる人を見付けたんじゃなかったの」
「その専業主婦も、出会い系で知り合った男と駆け落ちしてしまった」
「色々と大変だったんだ」
近田は、真理子に求婚するに当たって、仕事を辞めて家庭に入る事を望んだ。
「籠の鳥を満足させるのは、大変なのよ」
喫茶店の入口で、近田と別れた真理子は、近田の後ろ姿を見ながら呟く。
真理子は、踵を返し得意先に向かう。
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