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俺はその日、間もなく開戦するミッドウェー海戦にそなえ、空母赤城と相棒の艦上爆撃機[彗星]とともにミッドウェー島を目指して大海原をつっぱしっていた。
俺は自機の「彗星」を見ながら空母赤城の上につったっていた。
「こら!栗林!そんな所につったってないで、ミッドウェーで戦闘になっている時の作戦でも考えんか!」
俺を見るなり怒鳴りとばしたのは、俺の部隊の隊長である、高木 伸一大尉である。
細身の体からは想像出来ないような力の持ち主であり、部下からの信頼も厚い頼りがいのある隊長であった。
俺は栗林力、階級は少尉で、この隊の副長を勤めている。
「しかし、爆撃機や戦闘機に対する防弾装備の充実や、新型の登場など、ここのところ帝国は大忙しですな隊長」
俺は最近帝国軍がなにかと戦闘機と同等に搭乗員を大事にするようになってきたのがいささか気になっていたので、隊長に訪ねてみた。
「お前の弟、館山で隊長機だってな。上は小園司令だったか?」
隊長が俺の彗星を遠い目で眺めながら話しかけてきた。
弟の名前は栗林雅之、館山基地に配属され、戦闘機隊の隊長を任されている。
「はぁ、しかし小園司令とはまた凄いのをひっぱりましたな」
隊長は依然として彗星を眺めながら
「小園司令や隊長の栗林大尉については、山本長官殿が一枚噛んでいるようだな」
私はその場に固まった。
「山本長官とは、あの山本五十六長官殿ですか?」
私が訪ね返すと隊長は頷き
「俺もよくわからんのだがな、あの部隊はなんかいろんな噂がたっとるようだな」
隊長は赤城から見える大海原に振り返り、一つため息をついた。そして
「お前、帝国科学研究所ってのをしってるか?」
隊長は俺の方に向き直り、真面目な顔をして話しかけてきた。
「あぁ、それなら弟の雅之から名前くらいは聞いています。なんでもあいつ、その帝国科学研究所の弾井とか言うのと関わりがあるらしいですわ。」
すると、俺は右の頬に怒りの鉄拳を一発くらい、その後隊長が説明を始めた。
「お前が言う弾井って奴は少佐だぞ!言葉をわきまえんか!」
頬を抑えながら起き上がった俺は、隊長にささやかな反抗をこころみた。
「少左っつったって、弾井少佐はここにはいないから別にわかりゃしませんよ。そんな怒ってるとシワが増えますよ隊長」
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