四月

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日本では人生は80年だなんて言われて久しいが、その分つまらない時期も増えることを意味する。 僕に言わせてみればつまらない期間は圧倒的に長い。大部分がつまらないと言っても過言じゃない。 両親から大卒など当たり前の時代が来て、就職の際にそれ以下なら厳しいからと言われて中高一貫校に進学した。特に疑問に思うことが無かったし、勉強が苦痛だと思ったことも無かった。かと言って勉強が面白いと感じたことは無かったが。 大学受験には失敗した。僕は世に言うところの猛勉強が出来なかった。毎日適度に勉強して適度に休むのでは受験の成功者にはなれなかったようだった。 両親からは浪人するように言われた。予備校に通わせてくれた。しかしながらそんなに裕福な家庭では無かったから浪人するように言うくせに受験料だけは払うように言われた。どこか不条理な気がしたがいちいち指摘するのも面倒くさいし、最悪就職しろだなんて言われたくなかったからアルバイトを受け入れた。甘ったれのようだがまだ就職したくなかった。 アルバイトは予備校近くのコンビニに決めた。あんまり体を動かすことないアルバイトが良かったのでコンビニは失礼ながらそんなイメージがしたからまさに理想的な場所だった。 今日はアルバイトの合格が決まって最初の日だ。ドキドキする。環境の変化に弱い。そんな機会に遭遇することが少ないし僕の性格が苦手なのだろう。大学や将来の職場でもそんな経験をしなければならないと思うと気が滅入る。 「今日が初日だね。マニュアル本読んでくれたとは思うけど完璧じゃないよね。最初は周りを見て動いてくれたら良いから。分からなかったら先輩たちに聞いてね。」 小太りの店長が言った。汗くさくて接客業には向かないのではと思ってしまう。僕も向くような顔をしていないので人のことは言えないが。 「君の時間帯の責任者は関さんだから、頼りにしちゃってね。」 今まさに接客しているバーコードヘアーの中年男性が関らしい。いかにも接しにくい風貌だ。人見知りが激しい僕の性格以前の問題だろう。 初日にして人間関係を理由に辞めたくなった。 「じゃあ私は会議があるので。2人で十分の忙しさだからね。」 まだ接しやすそうな店長は出ていってしまい、店員は僕と関さんだけになってしまった。 「金本と申します。よろしくお願いします。」 「……………………よろしく。」 会話はそれっきりだった。
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