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何をするのか分からなくて関さんに指示を仰いだ。関さんは研修生に様々な仕事をやらせるのはリスキーと判断したのか初日の僕はレジ打ちだけを行った。お客さんが列を作りそうになったら関さんがヘルプをしてくれた。
代々木駅の近くにある店だから人通りは激しい。ひっきりなしにお客さんがやってくる。連続してレジ打ちをしなければならなくなると頭が混乱してしまい何を言っているのか、やっているのか分からなくなる。時間の感覚も無くなってゆき、気付けば終業時間になっていた。
結局レジ周辺から動くことはほとんどなくアルバイト初日は終わった。動いたつもりはなくても汗をかいたのが不思議だった。
「私と一緒にあがるから。次の時間帯の方々と交代だよ。」
初めて関さんから話しかけてきた。どう考えても性格的にあわない人でも時間帯が被るわけだから無用な対立は避けたいし、そこそこの関係を保てたらベストだと考えていた僕は少しばかり安心した。
次の時間帯の人たちと交代して更衣室に入った。だいたい六畳くらいの狭い空間に中年男と二人でいるのはかなりむさ苦しい。
店主室兼更衣室だから監視カメラの映像が全て集められていた。店の裏側を見るのは何か新鮮な気分になる。
ユニフォームをロッカーに入れて私服に着替え、服の中からガムを一枚取り出して口に含む。携帯をチェックする。
「君はなかなかの進学校を出たらしいな。」
帰る準備をしていると関さんが話してきた。着替えている最中自分の世界に浸ってしまいすっかりその存在を忘れていた。
「世間的にはそうみたいですね。店主から聞いたんですか?」
「いや、勝手に履歴書を見た。私と一緒に働く人の人となりを知りたいからね。」
関さんはともすれば犯罪行為ともとれるような事をしていた。履歴書を店主以外の人間が見えるような所に置いた店主も店主だがそれを差し引いても関さんの行為は異常であり非常識としか言いようがない。
「時間帯責任者にはロッカーの鍵が与えられてね、二段目の棚にこっそりと置かれているんだ。私はこの隠し場所を知ったときに言い知れぬ興奮に襲われましたね。ある意味特殊な性癖なのでしょうね。」
気持ち悪さに声が出なかった。
「これは出会った印として君にだけ教えました。内緒にしておいて下さい。」
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