四月

4/10
前へ
/86ページ
次へ
多分僕はとんでもない人に出会ってしまった。あと一歩踏み出せば犯罪者となりうる男、関さん。 「内緒にしておいて下さい。」 関さんは念を押すように言った。 「個人的に楽しんでいるだけです。イタズラしてやろうとかそういう嫌らしい気持ちはないですから。」 大学受験料を支払う他にも多少の気分転換を期待してバイトを始めたわけだが、バイト先を変えようかと本気で思い始めた。でも探す時間を考えたりまた新たな環境に適応しなければならないなど面倒な要素が多すぎる。 関さんも黙っていたら何もしないだろうし、距離を保ちさえすれば大丈夫だろう。 しばらくは続けよう。少なくとも勉強に支障をきたさない範囲で。 「分かりました。何もしないなら黙っておきます。」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 予備校の授業は退屈だった。両親にお金を出してもらっているし今年受からなければならないという切迫した事情はあるから通っているにすぎない。 代々木ゼミナールに決めたのは自宅から近かったから。駿台や河合塾が近ければそっちに行っていた。予備校なんてそこまで大差はないだろう。 予備校で友達を作ろうとは思わない。自分から話しかけるのは苦手だし、何より勉強に集中したかった。恐らく今後も予備校では質問に行くときや購買所で買い物をするとき位しか言葉を発さないだろう。 休憩所で偉そうに屯している奴らを見ると反吐が出る。浪人生のくせに危機感を微塵も感じさせない脳天気さを見る度に友達を作ろうとしない自分の選択の正しさを確信する。 お茶を飲みながら黙々と英単語を覚える自分に酔いしれる。 「あいつキモくねぇ?いつも1人だよ。」 「東大文系コースの奴だろ?必死なんだよ。」 僕を見てコソコソとバカにしたような事を言っている。相手にはしない。時間の無駄だ。
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加