四月

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中年でフリーターは僕には架空の世界の住人としか思えなかった。 関さんは慣れた手つきでお客さんの接客を行う。動作に流れがあった。熟練した手さばきは仕事を手抜きしていない証拠だろう。たかがアルバイトだとお気楽気分でやっていない。少なくともこの人は。 結局暇だった時に不足した分も売ってしまった気がする。久しぶりにクタクタになった。高校の体育以来かもしれない。体育は好きだった。勉強で鈍った体を動かすために夢中になっていた。物静かな僕が一番活発だった時間だったと思う。 「お疲れ様。いやぁ、売上予測より一万多いよ。関さんと金本君は十時あがりね。ご苦労様。」 店長と交代のアルバイトの子がやって来た。売上が好調で期限が良さそうだ。 関さんは一足早く更衣室に行った。 「どうだい、関さんは?」 店長は僕に聞いた。一瞬履歴書の盗み見の件が頭に浮かんだが、とりあえずは黙っているという約束を思いだし頭の隅に追いやった。 「まだ僕が研修生って言うのもあるんですが後ろから支えてくれるような安心感がスゴい心強いです。これからも頑張りたいですね。関さんには色々教わりたいですし。」 すると店長は意外といった表情をしていた。 「ほんと?関さん気難しいから一緒に入りたがる人いないんだよね。金本君が初めてかも。君が入らない日は俺が入ってるんだけど暗いのなんのって!そのくせ手つきは素早いからちょっと…………ねぇ。」 店長が言った後交代のアルバイトの子も納得したように言った。 「そうそう、て言うかあれでアルバイトだから笑えるよね。スゴい一生懸命だし。もしかしたら正社員狙ってるとか?どうなんです、店長?」 「え~、時給をあげたとしても正社員はないよ!そもそも接客向きの顔じゃないし定職見つかったらすぐにでも辞めて貰いたいんだよね。あ、金本君今の会話オフレコね!お客さん来たからまた今度ね。」 最初に抱いていた関さんへの印象はネガティブなものだった。履歴書の盗み見を知ってから更に強くなったが仕事ぶりを見て吹き飛んだ。 だが他の人は僕よりもネガティブだった。確かに取っ付きにくい風貌ではあるのだが、彼らは内面をちっとも理解していない。僕よりも付き合いが長いくせに。 何だか人間関係の裏面を見たようで悲しくなった。 更衣室に行くと関さんは既に着替えていた。スーツ姿だった。ワイシャツがピチピチでお腹が苦しそうだった。
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