四月

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「実は今日面接を受けてきたんだ。今までは選り好みしてたんだがハローワークの職員に就ける仕事につけと言われてね。キオスクが正社員を募集していたから受けてみた。もしかしたら君と仕事するのもあと少しかもしれない。自分でいうのもなんだが私は接客向きだと思うんだ。」 関さんは言った。仕事が出来る人を正社員にすることを拒む店長と関さんの自己分析との間には物凄い乖離があった。 正直僕も関さんは接客向きの顔ではないと思う。付き合ってみないと人柄が分からないというのはお客さんと一期一会のようなキオスクでは厳しいのではと思う。かと言ってそれを指摘する勇気もなく黙って聞くしかなかった。 「君は大学はどこを狙っているんだい?」 「東大です。一応早稲田と慶應も併願で受ける予定ですが、私立は懐と相談して数を決めるつもりです。」 「そうか。私の時代は高校生でも当たり前に大企業に就職出来たけど今はなかなか難しいからな。頑張っている君を見ていると私も負けてられないと思うよ。お互い頑張ろう!」 関さんは笑っていた。取っ付きにくい印象など少なくとも僕にはなかった。僕には自然に接してくれるからだと思う。 帰る前に雑誌の立ち読みをした。小学生の頃から週間少年誌が大好きだった。退屈な日々から逃れられる数少ない手段がマンガのキャラクターに自己を投影することだった。少年紙だけに飽きたらず青年誌にまで手が伸び立ち読みはストレス発散の手段となった。 大好きなマンガを見ていると時間を忘れる。マンガ家も悪くないなと思っては画力のなさを思い出し諦めること数知れず。 いつものようにマンガを読んでいると強烈な香水の匂いが鼻につく。びっくりして匂いの発生源へと目をやる。 モデルのようにすらっとした体型にお尻にまで届きそうな髪型をしている女の人だった。けばけばしいメイクをしており、僕が最も忌み嫌うタイプの人間だった。 僕はパンクやロックが理解できない。奇天烈な格好をして無駄にシャウトをしてみたりエレキギターが発するの耳に悪い音…………想像するだけで胸苦しい。 渋谷や池袋の百貨店でもBGMの主役はこんなジャンルだから理不尽さに納得がいかない。本当に非生産的な音楽だとさえ思う。
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