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凛子の手は、無意識のうちに肩から下げた鞄の表面をなぞっていた。凛子が考えていたのは、その中に仕舞われた、一通の手紙のことだ。
無地の白い封筒で届けられた、同窓会の、招待状。
バスが止まった。凛子の目的地である佐原村(さわらむら)分校前は、まだ先だ。凛子は顔を上げる。
調度、乗車口から若い男が乗り込んでくるところだった。凛子は眉をひそめる。脱色のしすぎで傷んだ、肩口までのつやのない金髪。上は光沢のあるライダースジャケットを着込み、下はすり切れたデニム。無駄にじゃらじゃらとつけた、シルバーの装飾品。ポケットに手を突っ込んで、肩を前後に揺らしながら歩くその姿は、まるで相手を威嚇する鳥のようだ。凛子の好かないタイプの男である。自分が離れていた間に、この村にもこんな男が生息するようになってしまったのか。嘆かわしい。
そんな凛子の胸中に気づいたわけでもないだろうが、その男はバスを見回し、凛子に目を止めた。一重のまなこが見開かれる。
「あれ? リンコじゃん」
その声には、聞き覚えがあった。凛子も目を丸くする。まさかとは思うが……。
「……シュンなのか?」
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