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俺は明智高校に通う極普通の二年生だ。
性は宝井(タカライ)、名は悠二(ユウジ)。
いつも友人と他愛ない話をしては、暇な時間を潰している平凡な人生に、飽き飽きしていた頃。
俺の生活が、劇的な変化の始まりを告げ出した。
「えー、それじゃ転入生を紹介する」
季節は春を終えようとしていた頃か、担任が何の前触れもなく突如、このクラスへの転入生を発表した。
迫りくる眠気に成す術なく、机に顔をつけていた俺だったが、担任の言葉にあった転入生の存在が気になり、重たい顔をあげる。
だがクラスメート30人あまりが、ほぼ全員立ち上がっていたため、一番後ろに座っている俺は、顔をあげただけじゃ転入生の顔を拝めそうにない。
「えと、水瀬 有希(ミナセ ユキ)といいます。よろしくお願いします」
女子ね。
声で性別が分かり、再び眠気がゆっくりやってくる。
「それじゃあ水瀬は、窓側の一番後ろが空いてるから、そこに座ってくれ」
眠りにつくまえに、担任の声が耳に入る。
俺の隣しか空いてなかったな、そういえば。
やれやれ、もうこの席から左に移って窓から外の景色を眺めるという、俺だけに許されていた自由は無くなってしまったな。
なんて、ひどく個人的な事に頭を巡らせていると、転入生を見ていたはずの奴らが、俺に視線を向けていた。
「宝井、席替われよ~」
「まったく、うらやましいぞ、このヤロー」
「頼む!替わってくれ!」
おいおいおい。
一切話したことのない奴までもが、羨ましそうにこっち見てんだけど。
そんなに転入生の水瀬って奴は、可愛いというのか?
俺はそんな疑問を抱き、ゆっくりと隣の席に目を向けてみた。
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