放浪者

2/2
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
 彼は放浪者だった。  広大なる暗闇の空間の中にただ一人彷徨う放浪者だ。  上も下も無い。右も左も前後すら……。  まさに彼は漂っていた。  何らかの質量物質に衝突しない限り彼は漂い続ける。  ブラックホールやら暗黒物質など、彼にとっては何の意味も持たなかった。勿論、彼の進行を拒もうとする小惑星や太陽風、爆発寸前の星の収縮さえも。  彼の目的はただ一つ。  宇宙に存在する生命体に人類がいたことを示すだけだった。  何故?  そんなことをして意味があるのか?  それを彼に投げ掛けても彼は何も答えないだろう。彼を作ったマザーコンピューターに聞いたとしても、満足出来る解答は得られないはずだ。いや、逆に問われるかもしれない。 『人類は何故滅びると解っていて子孫を残そうとしていたのか?』と。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!