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ある日
私は朝から体調が悪かった。
女なら月に一度やってくるお客様だ。
友達と生理用品のことを座布団と呼んでいて
「お客様がきたから座布団を敷かないと!」
なんて言っていた。
もともと貧血症で
それは心臓の形が少し変わってるから仕方ないと
入社前の健診で言われていた。
お腹は痛いし
目の前はクルクルと回る。
暑かったせいもあって
吐き気までしてくる始末。
でも
医務室は職場から遠く
まだ初々しかった私は
『生理痛で…』
と職場では言えなかった。
今ならなんでもないことなのにね。
朝礼の時に見た松本さんの横顔を思い出して
気合いを入れつつ
事務所から備品を抱えて職場に戻ってきた。
もう荷物を下ろせると思ったその時
――あれ?前が見えない――
抱えていた備品の入ったダンボール箱を
落としたと思った。
――散らばるっ!!――
とっさにしゃがみこんで箱の中身を押さえようとしたはずが…
そのまま床に倒れ込んだ。
顔のどこかを床にぶつけた感じがしたが
遠のく意識の中では
はっきりとはわからなかった。
「おい、どうした?!大丈夫か?」
―誰かが私の体を抱きかかえようとしている―
「どこか痛いのか?俺がわかるか?」
―うん、わかる。
その声は松本さん
大丈夫だから
ちょっと貧血で…―
それは確かに松本さんの声で
私はちゃんと返事をしているつもりなのに
声が出ていないようだ。
というか見えていない、
聞こえているのに見えない
返事ができない。
体に力が入らない。
―起きあがらなくちゃ…―
そう焦っているのに体が動かない。
その時
ひょいっと抱き上げられた感覚があった。
―誰かが運んでくれるんだ、悪いなぁ―
と思った時に目が見えた。
顎の下から見る松本さんの顔だった。
―下から見ても鼻が高いなぁ…鼻が高い人はプライドも高いって聞いたことあるなぁ…―
なんてボンヤリ考えていた
はっきりしない意識の中で。
一瞬
しっかりと意識が戻った。
―え?!松本さんに抱き上げられてるのぉぉぉ!!―
こんな機会はないと
また目を閉じて
意識をなくしたふりをした。
右腕で頭を抱き上げられてるから
垂れ下がっている右手はそのままに
こっそり左手で松本さんのシャツをつかんだ。
首が揺れたみたいにそっと
松本さんの胸に顔を寄せた。
洗い立てのシャツの
お日様の匂いとかすかなコロンの匂いがした。
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