仇討ち

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〈壱〉    西漢国の隴西成紀にある由緒正しき校倉造りの家。秦代の将軍の血を受け継いだその豪奢な邸宅に、一人の少年が駆け込んできた。  坊主頭を両手で抱え、白の深衣を地に引きずっている。藍色の大帯は、結び目が緩んで今にも解けそうである。  少年の顔は蒼白で、見事な絹の漢服に染められてしまったかのような塩梅であった。 「母上、母上!」  重厚な扉を開き滑り込んだ先で、少年は派手に転んだ。 「おやおや、如何なさいました」  桃色に統一された上衣下裳に身を包んだ絢爛たる女性が、その少年の元へ歩み寄る。艶めく漆黒の髪は、綻び一つなく頭頂部で完璧に結わえられており、左右から垂れた二束の毛が腰の位置まで伸びている。珠と金で拵えた髪飾りが、窓から差し込む陽光に反射し、少年の泣き顔を眩しく照らした。 「母上。一つ、お聞きしたい事があるのです」 「落ち着きなさいまし」  母上と呼ばれた女性は、少年を優しく抱き起こした。  少年は鼻を真っ赤にしながら、美しく微笑する我が母を見つめる。 「聞きたい事とは何でしょう?」
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