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格子をくぐり、久方ぶりの心地よい風とに山桜の花弁が舞踊る。
胸に下げたさんたまりやのろざりをが厳かに揺れた。
『姫様』
彼は跪き、哭きそうなのを押し殺しているのがわかった。
彼も知っているのだ。
この先に進めば何があるのか・・・。
『すまぬ・・・すまぬな』
握り締め床に付いた彼の手を重ねると、いつの間にかその手はひとまわりもふたまわりも大きく男らしくなっていた。
『・・・とうに忘れ去られたと思うておりました・・・』
『姫様、某は・・・いまでも貴女様をお慕い申し上げております。信仰を捨てれば殿も赦すとおおされております。どうか』
懇願する姿に胸を締め付けられながらも、少女はゆっくりと首を横に振り、運命の待つ方向に歩む。
『はよう忘れて幸せにおなりくださいませ』
信仰を捨て去ることはできない意志を示し、たおやかに微笑んで見せた。
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