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次の日、彼は空港にいた。
青いシャツと黒いスーツを着て、誰かを待つように立つ。
「決めたのか」
不意に後ろから、まだ声変わりし始めたばかりな、子供特有の高さを持つ声が聞こえてきた。昨晩も聞いた、昔より少し低い、でもまだ少年の声。
それと同時に、なんの前振りもなくいきなり現れた声の主を見て、驚くでもなく、ただ毅然とした態度で答えた。
「ああ。こんなに遅くなっちまったけど、まだ間に合うと思うから。俺はもう…後悔したくない」
「…そうか」
青年の答えに満足したのだろう声の主は、幾分かリラックスした声で、青年と話し出した。
「お前、体鈍ってるだろ。向こうついたら先ず、俺がペイント弾で相手してやるぞ。前みたいにな」
「はははっ、稽古ばっかで実践してないし、丁度良いのな!でも、」
――俺が先ず最初にするのは、ツナに会うことだから。
優しい顔で言う青年に、少年はそうか、と呟いて、帽子を深くかぶり直した。
久し振りに会ったので、時折話を弾ませながら、それでも言葉少なにボンゴレの本邸へと向かう。
ふと思い付いて、さてあのバカな教え子はどうしてるかなと、少年は笑いを噛み殺した。
「さて、ついたぞ」
飛行機と車で移動して、巨大なボンゴレ本邸の前に立つ。
無駄に豪華な、なのに無駄のない、装飾品の数々。
少年曰く、「でかいマフィアの屋敷にしちゃ、質素すぎるくらいだ」、だそうだ。
権力を見せびらかすほど華美にならず、しかし威厳と立場の差を感じさせる様は、ボス本人の性格を映し出しているようだ。正に量より質、といったところか。
「こっちだ」
辺りをキョロキョロと見回す青年に口角を上げ、彼の前を歩き出す。
暫く歩いて着いたのは、今まで見た中でも一番大きな扉。
「入るぞ」
ノックも無しにいきなり扉を開ければ、その先にいる、
「もー、ノックしてから入れって言って、る…で…」
ススキ色の髪の、青年。
「よ、」
――あぁ、やっと会えた愛しい人!
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