2人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
見渡す限りの寂莫たる床石の上、彼は息を吸い込んだ。
たといコレが、己が衰弱した精神の生み出した幻覚であっても構わない。
いま、でなくて。 いつ、できる。 いや、いまこそ。
いまこそいまこそいまこそいまこそ
どこまでも煮えたぎり高揚してゆく胸の内の猛りとは裏腹に、その双眸は暗く静かに、
翳り冷えていった。
身のうちのソレが苛烈に燃え盛るほど、彼の面は、空気は、凍りつき静謐のハコをつくる。
氷点下の面。同時に感情の灼熱に達した彼という器は、何一つ無い灰色の天へ
熱に凍った瞳を向けた。 そして…
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
無機質な空へ、穿つように叫び上げた。
その声は、さながら、己が喉すらも裂き滅ぼす諸刃の凶器であった。
たとえこの為に、自らが醜悪でおぞましい屍骸に成り果てたとしても、
今この瞬間、腹の底へたぎった想いを、衝動によって吼え狂っている彼には、
一片の悔いも、在りはしないのだろう。
彼自身も、やけに冷静な頭の隅で、それだけは確かに理解していた。
最初のコメントを投稿しよう!