小品

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見渡す限りの寂莫たる床石の上、彼は息を吸い込んだ。 たといコレが、己が衰弱した精神の生み出した幻覚であっても構わない。 いま、でなくて。 いつ、できる。  いや、いまこそ。 いまこそいまこそいまこそいまこそ どこまでも煮えたぎり高揚してゆく胸の内の猛りとは裏腹に、その双眸は暗く静かに、 翳り冷えていった。 身のうちのソレが苛烈に燃え盛るほど、彼の面は、空気は、凍りつき静謐のハコをつくる。 氷点下の面。同時に感情の灼熱に達した彼という器は、何一つ無い灰色の天へ 熱に凍った瞳を向けた。    そして… 「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」 無機質な空へ、穿つように叫び上げた。 その声は、さながら、己が喉すらも裂き滅ぼす諸刃の凶器であった。 たとえこの為に、自らが醜悪でおぞましい屍骸に成り果てたとしても、 今この瞬間、腹の底へたぎった想いを、衝動によって吼え狂っている彼には、 一片の悔いも、在りはしないのだろう。 彼自身も、やけに冷静な頭の隅で、それだけは確かに理解していた。
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