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必然的に診察室から出ることになった空葉は待合室で待っていた。本当なら帰ってもいいのだが、無事を確認しないと気が済まなかった。
二十分程して、紅葉が診察室から出てきて大きく息を吐き、空葉の横に腰をおろした。
「ふぅ~ありがとう空葉。助かったわ…」
「いえいえ、で?あの子は?」
「赤城 恋ちゃん。肺に少し厄介な病気があるのよ。かなり昔から居るわよ?」
「本当?会ったことなかったよ…」
風邪に揺れる髪がまだ目に焼き付いている。そう、会ったことがなかった。あんなにも美しい少女には…。
「あら、混んできたわね…私、診察に戻るんだけど…恋ちゃん見ててくんない?」
「うえっ!?」
さすがにまずい。そもそも、あの少女にしてみれば自分は他人もいいところだ。そんな男が目を覚ましたときにベッドの横に座っていたらどう思うだろう。
「えっ!いいの!?ありがとう!」
「うえっ!?ちょっ紅葉!?……はぁ~しょうがないか…」
紅葉が出てきた部屋に入ると、さっきとは違って規則正しい寝息をたてている少女がいた。
(やっぱり可愛いなぁ…っと…仕事でもしようかな…)
空葉は用意されていた椅子に腰掛け、メモ帳を取り出してすらすら筆を進めてゆく。
しかし唐突にある事実を思い出した。
彼は風邪をひいているのだ。
「あっ…だめだ頭が働かない…」
さすがの彼も、窓の外を眺めながらぼーっとすることにした。
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