前半

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アキヨシは木登りが得意だった。 家の近くに公園があって、いつもその木に登っていた。 姉が下で僕を見上げている。 「あっくん、気をつけて」 姉は僕が木登りをするとき、心配そうな顔をする。 「大丈夫だよ。こんな低い木、へっちゃらだよ」 アキヨシはそう言って、木の一番高いところまで登る。 真夏の太陽がギラギラしていて眩しかった。 葉っぱの裏に毛虫がいた。おもしろいことを思いついた。 「姉ちゃん、おもしろいもん見つけたよ」 アキヨシは下で見上げている姉に声をかけた。 「なぁに?また毛虫とかじゃないでしょうねぇ」 ばれてる。 つまんないや。 「なんでもないよ」 とアキヨシは言って、ゆっくりと木から降り始めた。 僕が地面にたどり着くと、姉が言った。 「猿も木から落ちるって言うけど、あっくんは猿以上ね」 アキヨシは笑った。 「姉ちゃん、プレゼント」 と言って姉の目の前に、手のひらに乗せた毛虫を見せた。 姉は悲鳴を上げ、10メートルくらい走って逃げた。 「油断大敵だよ。姉ちゃん」 アキヨシは満足気に笑った。
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