前半

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いい匂いがした。姉が台所で料理を作っていた。 「今日のご飯なに?」とアキヨシが言うと、姉は怒ってアキヨシの頭を殴った。 「ママは優しいから言わないけど、あっくんイタズラばっかりしちゃダメだよ」 アキヨシは泣きそうだった。リビングに逃げて、テレビを付けた。 姉のため息が聞こえた。 窓の外で何かが動いた。 見てみると父親だった。芝生に刺さったクギを抜いて、首をかしげている。 やばい。怒られる。 アキヨシはテレビの音量を上げた。 父親が玄関を開けて、家に入ってきた。 「アキヨシ、クギが庭に刺さってたぞ。ちゃんとおかたずけしなきゃダメだぞ」 ばれてる。姉が父親にチクったんだ。 アキヨシは姉を睨みつけた。 「私は何も言ってないわよ。誤解しないで、あっくん」 父親は土の付いたクギをブラブラと振りながら、様子をうかがっていた。 「庭にクギが刺さってたんだ。こんな奇妙な現象は初めてだ。きっとアキヨシの幽霊がいるんだな」 これが父親のジョークだ。幽霊とか死神、ゾンビとかのせいにする父親のジョーク。
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