前半

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アキヨシは姉が作った料理が大好きだった。 母親が作ったオニオンスープは食べれないけれど、姉が作ったオニオンスープなら食べれる。 「あっくんはお姉さんっ子だもんね」 そう言われるたびに、オニオンスープを思い出す。 食卓で母親が言った。 「あっくんはしっかり者のお姉さんっ子だから大丈夫よ」 それに対して姉が答えた。 「でも地球温暖化の番組みて、庭にクギを打つなんて、絶対に変わってるわよ」 父親が言った。 「いいじゃないか。それがアキヨシなんだから」 アキヨシは違うことを考えていた。 半年前に母親が作ったピーチパイ。 あれだけはおいしかった。母親が作った料理の中で、おいしかったと言えるもののひとつだ。 「それにしてもあっくん。お母さんは病弱なんだから、いきなり水をかけるのだけはやめてあげてな」 「わかったよ」 とアキヨシは言った。 反省はするけれど、すぐに忘れて同じことをしてしまう。 一週間ほど前にも同じようなことがあった。 あれは母親が日射病で倒れていたとき。アキヨシは冷たいお絞りを作ろうとした。手が滑って氷を入れた洗面器を母親の顔に落としてしまった。 わざとやったわけじゃないけれど、そのときも父親に同じようなことを言われた。 「母さんは病弱なんだから、大事にしてやってな」と。
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