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赤神 匠(あかがみ しょう)の場合
そこは、闇の中だった。
自分の存在を認識するのさえおぼつかない、何もない虚無の闇。
しかし、匠にとっては既に見慣れた空間だった。
初めて、ではない。
この空間へと放りだされたのは。
初めは単なる夢かとも思ったが、そうではないのだと教えられた。
聞こえてくるその『声』に。
「よう。」
声質は男とも女ともわからない。
毎度ながら気安い。
「ちったぁ慣れたか?ここにも?」
匠は無言のまま-
「何だ、だんまりかよ?つれねーなぁ。」
「・・・」
「けっ、まぁいいや。それよりちったぁその気になってくれたか?」
ぴくり、と匠は反応する。『声』はかまわず続ける。「俺に体明け渡す気に」
-そこまでが、匠の我慢の限界だった。
「どやかましいわぁぁぁ!!」
突然の大声に、空間全体がびくっとなる。
匠は一つ深呼吸して-
「最近毎晩出てくるわ、ワケわかんねー事言うわ、さっきだっていい夢見てたのにおかまいなしに割り込んできやがって!!」
隣に住む幼馴染みの娘といい雰囲気の夢だったと、わざわざ説明する必要はない。
「いや、あのそれは、すいません・・・」
「謝ってすむかぁぁぁ!!」-と、突然視界が開けた。-
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