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榊 凉(さかき りょう)の場合
何もない虚無の『闇』。 凉は、気付かぬうちにここにいた。
何も見えない。何も聞こえない。
触覚すらまともに働いているかわからない。
-夢-
思いかけたその時-
『声』は凉に語りかけた。
「よう、兄弟。」
目を凝らし、周囲を探るが、その姿はどこにも見当たらない。
「探したって無駄だぜ。今のおまえにゃ見えねぇよ。」
見透かしたように言う『声』に、しかし、凉は少しも動じる様子はない。
「誰だ?」
その凉の言葉を待っていたかのように、『声』は話しはじめる。
「俺はおまえさ。」
ぴくり-と、凉が反応する。
「これは夢じゃねぇって一応言っとくが、ま、そこら辺の事はいい。」
じらすようにひとつ間を置く。そして-
「おまえ、『力』が欲しくねーか?何もかもぶっ壊す事の出来る『力』を。知ってるぜ、兄弟。おまえ、いつもこんなくだらねー世の中ぶっ壊してぇって思ってるだろ?」
凉の瞳孔が開く。
だれにも聞かせた事も、感じさせた事もない、いつも凉の中にある真実。
知っているのは自分以外には-
『俺はおまえさ。』
『声』の言った言葉が、頭の中をよぎる。
「物分かり良くて助かるぜ。なぁ兄弟。」
満足気に『声』は言った。
凉は理解した。
『声』の正体も、そして何より言っている事を。 夢でも、そうでなくても何でもいい。
凉は、無意識に口の端をつり上げた。
「面白いな。そんな『力』なら、喉から手が出るほど、だ。」
凉が言い終えると、空間全体がざわざわとどよめき出す。
「はっ!こいつぁ良い!!おまえとは気が合いそうだぜ兄弟!だがな、一つ条件がある。」
「条件?」
ぴくり、と、凉は眉を跳ねさせる。
「あぁ、そうだ。何、簡単なこった。」
そこまで言って再び『声』は一つ間を置いて-
「俺を外へ出してくれりゃぁいい。」
まるで拘置所の履刑者のような言いように、凉は再度口の端をつり上げた。
それがどんな意味なのか、凉には理解出来ている。そして-
「いいだろう。」
言葉に、空間のざわめきが更に強くなる。
「商談成立だ!」
歓喜にふるえる『声』を合図に、凉の意識は『闇』へと堕ちた。
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