序章:-4

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榊 凉(さかき りょう)の場合 何もない虚無の『闇』。 凉は、気付かぬうちにここにいた。 何も見えない。何も聞こえない。 触覚すらまともに働いているかわからない。 -夢- 思いかけたその時- 『声』は凉に語りかけた。 「よう、兄弟。」 目を凝らし、周囲を探るが、その姿はどこにも見当たらない。 「探したって無駄だぜ。今のおまえにゃ見えねぇよ。」 見透かしたように言う『声』に、しかし、凉は少しも動じる様子はない。 「誰だ?」 その凉の言葉を待っていたかのように、『声』は話しはじめる。 「俺はおまえさ。」 ぴくり-と、凉が反応する。 「これは夢じゃねぇって一応言っとくが、ま、そこら辺の事はいい。」 じらすようにひとつ間を置く。そして- 「おまえ、『力』が欲しくねーか?何もかもぶっ壊す事の出来る『力』を。知ってるぜ、兄弟。おまえ、いつもこんなくだらねー世の中ぶっ壊してぇって思ってるだろ?」 凉の瞳孔が開く。 だれにも聞かせた事も、感じさせた事もない、いつも凉の中にある真実。 知っているのは自分以外には- 『俺はおまえさ。』 『声』の言った言葉が、頭の中をよぎる。 「物分かり良くて助かるぜ。なぁ兄弟。」 満足気に『声』は言った。 凉は理解した。 『声』の正体も、そして何より言っている事を。 夢でも、そうでなくても何でもいい。 凉は、無意識に口の端をつり上げた。 「面白いな。そんな『力』なら、喉から手が出るほど、だ。」 凉が言い終えると、空間全体がざわざわとどよめき出す。 「はっ!こいつぁ良い!!おまえとは気が合いそうだぜ兄弟!だがな、一つ条件がある。」 「条件?」 ぴくり、と、凉は眉を跳ねさせる。 「あぁ、そうだ。何、簡単なこった。」 そこまで言って再び『声』は一つ間を置いて- 「俺を外へ出してくれりゃぁいい。」 まるで拘置所の履刑者のような言いように、凉は再度口の端をつり上げた。 それがどんな意味なのか、凉には理解出来ている。そして- 「いいだろう。」 言葉に、空間のざわめきが更に強くなる。 「商談成立だ!」 歓喜にふるえる『声』を合図に、凉の意識は『闇』へと堕ちた。 -5へ-
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