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『父さん。やめろー』
彼、東條拓鬆(とうじょうたくす)は、いつも同じ悪夢にうなされて、目を覚ます。
まだ、拓鬆が、小学生の頃起きた事件が、脳裏から離れないでいる。
二階の部屋で勉強をしていると、下から、何か鈍い音がしてきた。
下に行き、居間のドアを開けると、そこには、信じられない光景が広がっていた。
床一面に、どす黒液体が広がっていて、中央に、人影が見える。
恐る恐る近づくと、母親が倒れている。
拓鬆が、状況を把握するため、周りを見渡す。
逆光で、顔までは、はっきり見えないが、窓際に、父親と、泣き叫ぶ、弟がいる。
父親の手には、真っ赤に染まった、包丁が、握られている。
今まさに、弟に、振り下ろされようとしている。
拓鬆は急いで、弟に駆け寄り、抱き上げる。
父親、いや、包丁を背にする形で。
すでに振り下ろされた包丁は、拓鬆の肩を掠め、床に落ちた。
「くうっ!!」
痛みを堪えて、父親を睨み付けた。
視界に飛び込んできた、父親の顔は、拓鬆が想像していたものとは、違っていた。
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