花札

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「…わかりました。何とかチケット取るんで、それで取引成立って事で。」 「最前列でよろしく~。ありがちょ、感謝するよ。あと、彫り入れるんなら俺を指名してね!さっきの鶴、入れたそうに見てたよねぇ。俺、腕は確かだからさ。」 「はぁ、それでは…」 両腕を使い、ジェスチャーで自分の凄さか何かをアピールされた。 相変わらず楽しそうに。 でもジェスチャーの意味がよくわからなかったので、適当に相槌を打っといた。 適当というのは、時にして便利である。 要領の面で。 ふと堺さんを見ると、申し訳なさそうに俺に会釈をしてくれて、苦笑いで返した。 この店の苦労人は、間違いなく堺さんだ。 それじゃあ、失礼します。と言ってドアに振り返り、重いドアをヤケクソのように目一杯引いた。 ったく、重いなぁ!ちくしょー! 店を出た後に残ったのは憂鬱だ。 相澤さん、という彫り師が俺に脅威を与える人物になるとは… つくづく、わからないものだ。
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