花札

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筆箱からシャーペンと消しゴムを取り出し、紙に向かって書こうとしたら、イメージに混じって長崎さんの顔が浮かんだんだ。 一応、伝えておいた方がいいか。 椅子から降りて、床に転がっていた携帯を掴み、発信をした。 「もしもし。」 「お仕事中、すいません。写真集の衣装とかって、俺が提案とかしちゃったりしたら、マズイですかね?調子こいてるって思われたりとか、」 聞いておきながら、心の中でひたすら同意を求めた。うん、良いと思うよ。っていう、あの優しい声で。 「ははは、そんな事ないよ!むしろ、やる気があって好印象なんじゃないかな。」 「本当ですか?あっ!あと、お願いがありまして『キャロル』のチケットなんですけど二枚頂けないですかね?できれば前の方で。」 「わかった!任せてよ!」 長崎さんの頼りがいのある明朗な声を聞いていたら、嬉しくなった。 本当に良い編集者に恵まれたな。 通話を終えて、携帯をベッドに投げ捨てたら、執筆意欲が湧き、シャーペンが踊るように動いていった。
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