恋火

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       だが、神々と人間は、それぞれ二人の関係を良く思わなんだ。 強く反対し激昂した人間は、酷く怒鳴りつける。だが、それでも二人の想いは絡まったまま、互いを慈しむ。 神々も、激怒した。   一番の勇士が、人間の娘と。 一番の器量良しが、炎と。   繋ぎ寄り紡ぐ生命が、子孫繁栄を願わぬとは言語道断。最善の手立てはないものかと、村人と神々は会合を開いた。 何時からか、神と人間の間には溝が生まれていたのだ。神に似た傲慢さと知識を兼ね備えた人間、気高さと完璧を望む神。 だからこそ、自慢の炎が、麗しき娘が、相手に奪われたことに酷く憤慨した。     当の二人は、傍にいることだけを誓ったのに。     とある日、炎は、何時ものように娘に言った。 「愛しい」 そして呪文のように呟き続け、娘も同じく言った。 「心は傍に」 決して触れ合えぬ絶望は、何よりも純度の高い想いを生み出す。それは希望に変わり、新たな時が紡がれる。流れ星だけが二人を祝福し、漆黒の夜空からは星が降った。 この時、大切なものを見逃すことなく、二人は存在した。   ――明くる日、炎が姿を消した。   娘は待った。 一日待ち、二日待ち、三日が過ぎて四日が過ぎた。 笑顔が消えた娘を村人が代わる代わる訪ねては、炎は彼女を捨てたのだと吹き込んだ。 娘は泣いた。 炎でなければ意味がない。暁が紺碧の空を割り、炎の色に染まる度、締め付けられる胸を抱えて涙を流した。           やがて炎は帰ってきた。 空と地の向こう側で、炎が天上の神に囚われてから、七日が過ぎていた。そして、風よりも速く駆けた。 一刻も速く、娘に会いたい。 持てる限りの力を以って、命が尽きるほどに駆け抜けた。森を抜け、平原を滑り、谷を越える。何時もは生命を焦がさぬよう動く炎の軌跡が、ちりりと焦げていた。     いない   いない   いない   いない   いない   ――娘の姿は、何処にもなかった。      
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