第一章 舞い降りたキセキ

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 薄汚れた壁、そしてタタミ十畳程の広さで、窓からは向かいの店の入口がよく見え、日光が温かに差し込む部屋。  薄汚れた壁は古くから、という年季を感じさせるものの、衣服や靴、紙や木材などが散らばって汚い床は、最近にそうなった事を感じさせた。  その汚さに拍車をかけるように四角い机や食卓テーブル、椅子や武器などが無造作に配置されており、まるで空き巣に入られてしまったような姿を晒している。  部屋の隅に居る一人の女性、尖った耳に顔面の傷、吊りぎみの目に外に跳ねたショートヘア。尖った耳が些か人間離れしているが、極めて普通、いや……年齢不詳の情けなさそうな顔付きである。  そんな女性が部屋を汚くしたようで、未だにガラクタらしきものを次々と棚から取り出し、じっくりと眺めてからガラクタの山に放っていく。部屋を汚すのには、理由があるらしい。  それは無気力な呟きから、汲み取れよう。 「はー……。依頼用紙、ペンにメモ帳、ぬいぐるみ、壷。駄目、ガラクタばっかり。こんなもの絶対売れないよ」    眉を下げ、困ったような表情を浮かべ、家をひっくり返す勢いで物を引っ張り出して、何故にそんなに物売りがしたいのか。  理由は簡単。彼女は今、金がなく生活困難なのだ。  そんな時、強く入口の扉を叩く音が静かな室内に響いた。
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