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神流木家の道場には何度か入ったことがある。
普段道場を使わない俺にとっては、そこは神聖な場所に感じられた。
俺が抱く道場のイメージにピッタリな場所。
でも、練習をしているのがいつも美鈴一人だったことだけはイメージと違っていた。
少しだけ歩き、俺は道場に着いた。
中からは、竹刀の音が聞こえてくる。
きっと、美鈴は中にいる。
こうなると、今日美鈴が休んだ理由が全く分からなくなるが、それは本人に聞けばいい。
俺は道場の扉に手をかけ、扉を開いた。
開いてしまった。
「おぉぉぉぉぉっ!!」
道場の中から聞こえてきたのは、今まで聞いたことのないような美鈴の声。
その声だけで一歩退いてしまいそうになるほど、俺にとってその光景は異質だった。
美鈴は、防具も付けずに竹刀を振っている。
そしてその相手は、見たこともない男性。
雰囲気だけでも分かりそうなものだったが、俺が全く反応できない美鈴の剣撃を一歩も動くことなく防ぎ続けているのを見て、その男性の実力がどれほどのものかは何となく分かった。
だが、美鈴も凄かった。
あれほど巧みに竹刀を動かせるものなのかと、素直に驚愕してしまう。
そして何より、速い。
全て防がれてはいるものの、その剣撃が見えない。
いや、目で追いきれないんだ。
俺は、この戦いにいつの間にか見入ってしまっていた。
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