119131人が本棚に入れています
本棚に追加
くるくると空中で回り、竹刀は上昇していく。
美鈴は、時が止まったかのようにその場に立ち尽くしている。
そして、自然の摂理に従い、竹刀は道場の床に叩きつけられる。
竹刀特有のあの音が何度も響く。
その音が耳に入る度、実感する。
美鈴は今、負けてしまったのだと。
どんな理由で戦っていたのかは分からない。
だが、今の美鈴の姿は、敗北を連想させるには充分だった。
「っ……!!」
竹刀が完全に止まった瞬間、美鈴は力なく膝から崩れていった。
「美鈴っ!!」
思わず駆けだしていた。
おおよそここに存在してはいけない存在である俺が、それを考えずに。
ただ無意識に、反射的に体は動いた。
「悠太……?」
駆け寄って肩に手を置き、美鈴の無事を確認する。
そりゃそうか。
何しろ、美鈴は俺が見ていた限り一発も有効打をもらっていない。
だからこそ、美鈴のダメージは大きいのだろう。
美鈴の無事を確認した後、俺は男性を見上げた。
真正面から見ると、遠くで見ていたときの印象とは違ってくる。
その男性は、思ったよりも若くはない。
だが、体の造りを見るだけで、他の人となにが違うのかが一目瞭然だった。
そして何より、その眼。
深い。
そう表現するのが一番正しい。
どうしたらそのような眼ができるのか。
想像もつかない。
それが怖いと感じた。
最初のコメントを投稿しよう!