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まるで見下すような視線で俺を見るその男性は、それまで開かなかった口をゆっくり開く。
「誰だ、お前は」
それは当然の疑問であり、避けて通ることはできないもの。
だが、恐怖している今、声が声とならず、頭がうまく働かない。
「待ってくれ。この子は私の恋人で……」
そんな俺の状況を知ってか知らずか、美鈴が代弁してくれた。
だが、
「私はお前に聞いているわけではない。少し黙っていろ」
有無を言わさぬ言葉が、美鈴の言葉を消し去る。
この人は、今まで会ってきた人と何かが違う。
人としての質とでも言おうか。
そういった漠然とした感覚に訴えかけるように、この人は圧倒的に異質だった。
俺は立ち上がり、半身を美鈴の前に出しながら、恐怖を必死で隠して答える。
「……三間坂悠太です。さっき美鈴が言ったように、美鈴の恋人です」
萎縮してはいけない。
自分に自信を持てない俺が、唯一誇れるところ。
どんなに怖くても、そこは否定してはならない。
目の前の男性は、俺の言葉を聞き、俺たちを交互に見る。
何となく直感してしまう。
目の前のこの人は……
「父さん、私は……」
「弱くなったと思えば、そういうことだったか」
美鈴の父親なのだと。
その結論に至らない理由はなかった。
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