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美鈴の父親。
初めて見た。
初めてその存在を知った。
触れられなかった部分。
ゆっくりと溶かしていくはずだった氷の壁が、一瞬にして崩壊した。
だが、今はそれどころではない。
そんな事を考えている時じゃない。
状況の把握は依然困難。
しかし、俺は美鈴の前にいなければならない。
そう直感した。
「男にうつつを抜かし、挙げ句の果てに禁じ手を使うとは。呆れてものも言えんな」
吐き捨てる。
なんて眼で美鈴を見ているんだ。
殺気や怒気など、そんな抽象的なものを感じ取る能力なんて俺にはないが、それでもそんなものをイメージしてしまう。
「くっ……!」
「はっきり言う。お前は神流木家次期当主の器ではない。
十六夜の継承も必要ない。
お前の剣は、ここで終わりだ」
そこまで言って、美鈴の父親は俺達に背を向けた。
本当に何が何だか分からない。
はっきり言おう。意味不明だ。
何で美鈴が父親と戦ってるんだ。
何で、どうして。
疑問は止めどなく浮かんでくる。
でも、そんなことはどうでもいい。
今は、ずっと努力を続けてきた美鈴を否定したこの人が許せない。
俺なんかを好きになってくれて、俺と付き合いながらも鍛錬を欠かさない、そんな努力家の美鈴を否定したこの人が許せない。
美鈴の父親は俺達に背を向けて、道場の出入りに向かって歩いていく。
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