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止めなければ。
何でもいい。
止めなきゃ。
何故こんなことになっているのか。
今は冷静に考えている暇もない。
「待って下さいっ!!」
だから、叫んだ。
分からないから叫んだ。
後のことなんて考えていない。
ただ、心のまま叫ぶ。
静まり返っていた道場に木霊する声。
そして、美鈴の父親の足が止まる。
話を聞いてもらえる。
それくらいの余地はある。
一瞬安堵すらした。
しかし、それは俺の甘えだった。
美鈴の父親は、一度は足を止めたものの、俺の方を一度見ただけで、また歩みを進めていってしまう。
そうして、その姿は道場から消えていく。
「美鈴……」
どのくらいの時間が経ったのか。
父親に負けてから、美鈴はずっと道場で座り込んでいる。
少しでも安心できるようにと、美鈴のすぐ側に座り、この場にいる。
でも、もしかしたら迷惑なんじゃないか。
そう考えてしまいそうになるほど、美鈴の反応はない。
知っているようで、まだまだ知らなかったんだ。
先ほど起こった事態だって、美鈴にとってどれほど重要なことだったのか。
それすら分かりかねる。
強い姿ばかり見ていた気がする。
美鈴は、いつだって強くあろうとした。
俺の前では、強くあろうとした。
言い訳に過ぎないのだろうが、だからこそ錯覚していたんだと思う。
美鈴の強さは、きっと俺の想像よりも脆いものなんだろう。
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