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道場にいた時間は、実に一時間にも及んだ。
泣きそうになりながらも、決して涙を流さない。
そこまでして強くあろうとする姿。
いつもならば尊敬に値するんだけど、今はその姿を見ているのが辛かった。
一端美鈴の部屋に移動し、美鈴が話せる状態になるまで待った。
何はともあれ、話を聞かないことには何もできないと思ったからだ。
外はもう暗い。
そろそろ有希に連絡しないといけない時間帯だ。
でも、残念ながら今はそれどころではない。
美鈴を支えなきゃいけないんだ。
俺にしかできないんだ。
「すまないな悠太。見苦しいところを見せてしまった。許してほしい」
ようやく出てきた言葉は、いつも通りの美鈴の言葉だった。
いつも通りを装っている美鈴の言葉だった。
「見苦しくなんてないよ。事情ってものもあるだろうしさ」
それは本心だ。
あれを見て見苦しいなんて思わないし、家庭には家庭の事情があるってことも理解してる。
事実、俺がそうだったから。
「……美鈴が嫌なら全然断ってくれて構わないんだけど、良かったら話してくれないかな。
今日のこと、何があったのか」
軽々しく踏み込んではいけないと思った。
だから今、踏み込もうと思った。
俺が美鈴に抱くこの気持ちは、決して軽いものではないんだから。
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