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『あぶないよ…』
海留(かいる)が階段横の比較的低い桜の木によじ登ろうとしていると、不意に後ろから声をかけられた。
ギクッして振り向くと自分より小さな女の子が真っ直ぐに自分を見つめている。
『さくらは折っちゃダメなんだよ…』
自分より小さいと分かったら怖くは無い。ちょっと脅かして追い出せばいいと怒鳴りつけてやる事にした。
「うるせぇ向こう行ってろ!」
我ながら迫力がある言い方だと感心する。でも女の子には通じなかったようだ。
『ケン坊…さくらがかわいそうだよ…』
ケン坊?知らない名前だ。あの女の子は誰かと俺を間違えている?
「誰と間違えてるか知らねぇけど、今は俺の方が可哀想なんだよ。いいからどっか行けって。」
女の子が段々と泣きそうな顔になってきたので、あまり強く言えなかった。
『ケン坊落ちると危ないてば…』
俺は無視を決めた。登れそうな枝を選び、体重をかけてみる。向こうだって自分の話を聞かないんだ。構う事は無い。
『さち子は…さち子も何も無いよ…』
涙をポロポロ流し始めた。やばい。こいつは苦手なタイプだ。
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